「AIを使えば、エンジニアでなくても業務システムを作れる」。そんな話を聞く機会が、ずいぶん増えました。
僕も、サポートに入っている会社の業務を楽にしようと、Claude Code(AIのClaudeに、プログラムを書いたり動かしたりしてもらえる開発ツール)を使って勤怠のシステムを作りました。紙の勤怠カードをAIで読み取り、Excelの勤務記録表を作るものです。本番のサーバーで動くところまで作り込みました。
でも、結果は「見送り」でした。
先に結論を書くと、「作れること」と「使ってもらえること」は、まったく別の問題でした。AIが一気に楽にしてくれたのは、前者だけです。この記事では、何を作り、なぜ導入されなかったのか、そこから何が見えたのかを書きます。
作ったもの:紙の勤怠カードを読み取って、勤務記録表を作るシステム
きっかけは、月末の20分の打ち込み作業
その会社では、紙の勤怠カードに打刻し、月末にExcelの勤務記録表へ書き写して提出する運用になっています。サポートに入っている僕も、同じカードを使っています。
月末にまとめてやるからか、この作業に毎回20分ほどかかっていました。しかも勤怠カードの字は小さく、カードとExcelを見比べながら1日ずつ打ち込むのが、地味に面倒でした。
本当に狙っていたのは、その先の給与データ
1人あたり月20分だけなら、システムを作るほどではないかもしれません。作ろうと決めたのは、その先があったからです。
勤務記録のデータは、最終的に給与明細のデータを入力している担当者に渡ります。読み取った結果をCSV(ほかのシステムに取り込みやすい形式のデータ)で渡せれば、給与明細のシステムにそのまま取り込めて、大きく手間を減らせる。そう判断しました。
できあがった機能
Claude Codeとやり取りを重ねながら、次のような流れのシステムを作りました。

| 流れ | 内容 |
|---|---|
| 1. 取り込む | 勤怠カードをパソコンのカメラで撮影するか、画像ファイルを選ぶ |
| 2. 読み取る | AIがカードの表と裏を読み取り、日ごとの出勤・退勤の時刻にする |
| 3. 確認する | 左にカードの画像、右に日ごとの時刻を並べ、見比べながら直せる。AIが自信のない箇所は色を変えて表示する |
| 4. 出力する | 勤務地と役職に合わせた様式のExcelと、CSVを書き出す |

安全面にも手を入れました。カードの画像は、ログインした本人と管理者しか見られない場所に置く。AIに送る前に、ブラウザの中でカードの部分だけを切り抜く。AIを使うための鍵(APIキー)は暗号化して保存する。こうした対策をまとめた報告書も作りました。

読み取りに使うAIは、実際のカードで比べて選んだ
読み取りを担当するAIは、実際の勤怠カード10枚を使って、3つのモデルで比べました(2026年8月時点)。
| モデル | 正しく読めた枚数 | 1セットあたりの費用(目安) |
|---|---|---|
| Claude Opus 5 | 10枚中10枚 | 約10円 |
| Claude Sonnet 5 | 10枚中10枚 | 約7円 |
| Claude Haiku 4.5 | 10枚中9枚(17:36を17:35と読み違え) | — |
いちばん軽いモデルは、1枚だけ「17:36」を「17:35」と読みました。1分のずれは、画面で見てもほとんど気づきません。でも勤怠の記録としては、はっきりした間違いです。正確さと費用のバランスから、Sonnet 5を標準にしました。
それでも、AIの読み取りを100%信じる前提にはしていません。確認画面でカードと見比べられるようにしたのは、そのためです。AIが書く「もっともらしい間違い」については、前回の記事でも書きました。

それでも、導入はされなかった
完成したシステムを説明し、使い方の資料とセキュリティの報告書も用意しました。それでも、答えは見送りでした。理由として伝えられたのは2つです。
理由1:来年の春に、全社の勤怠システムが切り替わる予定だった
来年の春に、会社全体で新しい勤怠システムへ切り替わる予定がありました。それまでの数か月だけ別の仕組みを入れても、効果が薄いという判断です。
理由2:セキュリティが大丈夫かどうか、判断できる人がいなかった
もう一つは、セキュリティの不安です。ただ、「危ない」と言われたわけではありません。問題がないかどうかを、社内で判断できる人がいない、という理由でした。
システムは僕の側で用意したサーバーで動いていたので、会社の勤怠データを社外のサーバーに置くことになります。対策をまとめた報告書を作っても、それを読んで「これなら大丈夫」と判断できる人がいなければ、話は前に進みません。判断できないものは、「使わない」が自然な結論になります。
作ったあとで分かった、もう一つの壁
見送りの理由とは別に、作ったあとで分かったこともありました。
狙っていた給与明細のシステムは、かなり古い、その会社のために一から作られたシステムでした。CSVを取り込む機能がなく、取り込めるようにするには、システム自体に手を入れる必要がありそうでした。そこまでは対応できませんでした。
つまり、仮に導入されていたとしても、いちばん効果が大きいと考えていた「給与データへの取り込み」は実現できなかったことになります。つなぎたい先のシステムが何を受け取れるのかは、作る前に確かめられることでした。

並べてみて見えた、「通る」と「止まる」の分かれ目
「止まっても元のやり方に戻れる」ものは、話を通しやすい
実は、途中の段階で試作版を見せたときには、「これは会社の中心になるシステムではないから、いいね」と言ってもらえ、開発を続けることになっていました。
勤怠カードは紙のまま残るので、システムが止まっても、これまでどおり手で書き写せば仕事は終わります。止まっても元のやり方に戻れる。この位置づけが、開発を続けられた理由でした。
会社のデータが外に出るかどうかで、判断の重さが変わる
一方で、実際に使うかどうかの段階では、会社のデータを社外のサーバーに置くことが引っかかりました。
自分のパソコンの中だけで完結する道具と、会社のデータを預かるWEBシステムでは、求められる判断の重さがまったく違います。作る側にとっては同じ「便利なツール」でも、会社にとっては「データを外に預けるかどうか」という別の話になります。
作る前に、「困っている人」と「判断する人」を見つけておく
今回は、作ってから説明して、理解してくれる人を探す順番になっていました。
これから同じように社内ツールを作る人には、困りごとが大きく、社内で声を上げてくれる人と、安全かどうかを判断できる人を、作り始める前に見つけておくことをおすすめします。どちらかがいないと、どれだけ良いものを作っても、使われるところまでたどり着きにくくなります。
AIに任せられたこと、人がやるしかなかったこと
振り返ると、AIが担ってくれた部分と、人が動くしかなかった部分は、はっきり分かれていました。
| AIに任せられたこと | 人がやるしかなかったこと |
|---|---|
| 画面・データベース・Excel出力など、プログラム全体 | 何を作り、何を作らないかを決める |
| 勤怠カードの読み取り | カードの表と裏の並び、休憩欄の意味など、現場のルールを確かめる |
| 様式ごとに、どのセルに何を書くかの対応 | 最新の様式のExcelを手に入れる |
| セキュリティ対策の実装 | 安全かどうかを判断できる人を探す |
| 説明資料や報告書のたたき台 | 社内の誰に、何を、どう説明するかを考える |
| — | 全社の予定や、つなぎたい先のシステムを確かめる |
AIで作るのが速くなるほど、「作る前の確認」が大事になる
AIのおかげで、作ること自体のハードルは本当に下がりました。1人でも、ここまでのシステムを形にできます。
ただ、作るのが速くなったぶん、確認より先に作り始めてしまいやすくなります。今回つまずいたのは、どれもプログラムの問題ではありませんでした。全社の予定、判断する人、つなぎたい先のシステム。どれも、プログラムを1行も書く前に確かめられることでした。
AIで社内ツールを作る前に、確かめたい5つのこと
今回の経験から、作り始める前に確かめておきたいことを5つにまとめました。

① 誰が、どれくらい困っているか
自分だけの困りごとか、声を上げてくれる人がほかにもいるか
② 止まったとき、元のやり方に戻れるか
戻れるものほど、社内で話を通しやすい
③ データをどこに置き、安全かどうかを誰が判断するか
判断できる人がいなければ、答えは「使わない」になりやすい
④ つなぎたい先のシステムは、データを受け取れるか
取り込む機能がなければ、効果の大部分が出せないこともある
⑤ 近いうちに、全社の仕組みが変わる予定はないか
数か月で置き換わるなら、入れる意味が薄くなる
どれも、AIに聞いても答えは出ません。社内の人に聞いたり、実際のシステムを確かめたりして、人が集めるしかない情報です。
それでも、作ってよかったと思えること
見送りについては、冒頭でも書いたとおり、半分は納得していて、半分は納得できていません。

ただ、ここで覚えた技術と経験は、次に活かしたいと思っています。
実際、作る過程で得たものは手元に残っています。紙の書類をAIで読み取る仕組み。AIの読み間違いを前提にした確認画面。Excelの様式に合わせた出力。
セキュリティ対策と、その説明のしかた。どれも、別の業務や別の会社で使える知識です。
作ったシステムも、消さずに残してあります。
まとめ|AIが縮めてくれたのは「作る時間」だった
Claude Codeのおかげで、紙の勤怠カードを読み取るシステムを1人で作ることができました。作ることのハードルは、確実に下がっています。
ただ、社内で使ってもらえるかどうかは、別の問題でした。全社の予定、安全かどうかを判断する人、つなぎたい先のシステム。今回つまずいたのは、どれも人が確かめるしかない部分です。
AIで何かを作ろうと思ったら、作り始める前に、先ほどの5つを確かめてみてください。作る時間が短くなった今だからこそ、その確認が、作ったものを無駄にしないための近道になると思います。
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正直に言うと、見送りについては半分は納得していて、半分は納得できていません。